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部屋に入ると最初ほどの拒絶感は無いものの、いい気分ではない。
乾季のハイシーズン、ホテルは満室で別の部屋があるわけもなく…もやもやな気持ちのまま荷物を整理していたが、気分転換にもなるだろうと整理を中断してシャワー室に入った。
久々のお湯のシャワーは、肌がびっくりしながら喜び、文明の凄さをなぜか感じている。。
ぬるめの水シャワーも決して嫌ではなかったし快適だったけど、お湯の力は凄いな…。
シャワーを浴びることにして正解だった。
温かさに心もほぐれて冷静さも増してくる。
たっぷりと贅沢にお湯を浴びて、さっぱりとバスルームから出て来てしみじみと部屋を見渡す。。
冷静にみてもやはり暗い…。
初日は認識できなかったけど、日光や照明の問題ではなく、エネルギーも含めてこの部屋は暗いんだ。
…考えていても仕方ないな。
TVの音をBGMにして、仕入れの荷物を入れるスペースを作りながらスーツケースを整理する。
明日帰国なのか…早いな。
滞在日数が短いのでそんなに時間もかからずあっという間に終わりベッドに寝転がる。
…波の音が恋しい。。
いつもは好きなこちらのTVもあまり頭に入ってこない。
寝よう…。
TVを消し小さな明かりは残したままベッドに入ると静かに眠りに入っていった。。。はずだった。
ぼんやりした視界で部屋の天井を見ている…目は閉じたはず、、ここは夢と現実の狭間か……?
右側からなにかが迫ってくる。
ぼんやりした視界だったはずが、はっきりとナイフを持つ手が私の首めがけて静かに近づいてくるのがみえたっ!!
あわてて目を開ける。。!
なにあれ……
呼吸を整え深呼吸をしながら冷静になっていく。。呪詛がG氏によってとかれたから直接殺しにきたのか…?
いや。。もう終わったはず、大丈夫だといってたじゃない。
寝ようともう一度目を閉じる…。
今度は目を閉じた瞬間に夢と現実の狭間に間髪いれずに引き込まれ、先程の続きの位置からまたナイフを持つ手がさらにスピードと殺気を増して、私の首を切るつもりで狙ってきたっ!
ちっっ……!!!
恐怖は完全に消えて、自分の中で怒りが急速に燃え上がりぶちギレた!!!!
怒りで目を開けた私は半身起こして、ベッドサイドのテーブルにあった置時計を投げつけようとしたようで、渾身の力を込めて握りしめている。
しかし盗難防止でなのか、ボルトでしっかり固定してあり投げられなかった。。。というか、あの手に向かって時計を投げつけようとしたのか私は…。
時計から手を離し、枕に頭をつけて深呼吸した。
狭間に引き込まれたのにも関わらず、ここまでの怒りをもって攻撃する自分の一面があるだなんて思いもよらなかったが、相手側の執着と執拗さに心底怒りが込み上げてきたのは確かだ。
そこまでして私を殺そうとするなんて……誰なの?
細く節だった浅黒い男の手だったな…。
状況を思い出した瞬間、消えたはずの痺れがひりっと少し左ほほに感じた。。
まだ終わってない…。
あの大切な修行の時間、サイキックの皆さんとの時間全て踏みにじられたような気がして、とても不愉快で強い怒りが沸き上がってきて止まらない…!
…いやだめだ。。深呼吸して手放していく。
落ち着け、、のみ込まれるな。
ふと、G氏が教えてくれた完全なプロテクトのマントラを思い出した。
そうだ、あのプロテクトなら完全に守られるはず。ちゃんと寝て頭を冷やそう…このままではだめだ。
呼吸を整えマントラを唱える。
波紋のように部屋にエネルギーが広がり空気が変わるのがわかった。
脱力し眠気が訪れる…これで眠れる。。。
夢を見ることなく朝まで眠れた。。あれほど感じていた部屋の暗さがなくなっている。
顔にはやはりほんの少しの痺れを感じるが、前のものより脅威に感じないので、考えすぎないようにした。
今日は数分でも時間を無駄にしたくないので、だらだらせずにすぐに起きて準備をする。
外に出掛けられるところまで準備を終えて置時計を見ると、準備を始めた時間と同じ時間なのでびっくりして近づいてよく見ると秒針が動いていない…
ここ数年、いやかなりの年数全くなかったのに…やってしまった。
強い怒りを感じるなど大きく感情が動くと家電が動かなくなる、ブレーカーがとぶ、アクセサリーの石が割れたり、靴やバッグのようなものまでチャックが突然はじけたりと…
なんでも自分の物を無差別に壊してしまうので、友人に「クラッシャー」なんて、レスラーのような別名もつけられたくらいだったのは昔の話だったはずなのに。。久々にやってしまった。
人様の物の破壊は初めてだ…
電池が切れたくらいだといいなと思いながら、時計に謝罪して朝食に向かうために部屋を出る。
怒りを手放せたからか昨夜より冷静になれた。
まだ終わってない中、もうサイキックの方に直接頼れないし何か方法を考えなければいけない。
G氏に教えて戴いた繋がるマントラやプロテクトも実践しながら、呪詛の類いも勉強したほうがいいのかもしれないな…。
バリはホワイトマジックが生業のサイキックもブラックを一通り勉強すると聴いたことがあった。
帰国してから本や資料色々集めてみよう。
呪詛というものがなんなのか、曖昧な知識ではなく明確な知識が必要だ。
…そういえば、バリはブラックが生業のサイキックもまだ存在していて、何件かぞっとする話しや、事件も聴いたことがあったのを思い出した。。聴いた話しはどれも残忍残酷なものが多かった。
この現代にまだそれは確かに存在する…。
我が身にも起きるとはな。。
ここまで話を聴いていたというのに、今までは対岸の火事だったのだなと痛感した。
軽く朝食をすませて、ひとまず呪詛も昨夜のこともおいといて、気合いをいれて仕入れにでかけた。
何軒かいく場所は決まっていたのでタクシーを使いながら計画通りにまわっていく。
渋滞もなく仕入れはスムーズにすみ、友人たちとお土産を買ったり、お気に入りのカフェでお茶までできて、ホテルにちょうどいい時間に戻ってこれた。
スーツケースに手早くしまい、汗を流してから帰国用の洋服に着替え、ロビーに向かう。
チェックアウトも終え、ソファーで一息つく。。色々濃厚にありすぎて、修行の日々がもう遠く感じる…。
ひりっと小さな痺れがまた左ほほに感じた…終わってないと定期的に警告されてる気分だ。
…続けられるなら、この足でこのままサイキックの皆さんの元に修行にいきたいし、この疑問の答えがほしい。誰がまだなんのために私の命を狙いにくるのか…。私は何をやらねばいけないのか。。
いつもはもっと心地よさしかない余韻に浸りながら帰国するのに、、最後の日にちょっと複雑な思いを抱えているのは始めてだ…。
気づくとみんなが集まっていて、今日ずっと見かけてなかったIさんとBさんもロビーに来ていた。
空港に向かうために、スーツケースをホテルの大きい車にのせて、何人かはその車に乗り、もう一台に数人、残りの2人と私はBさんの車に乗る。
この旅で見る最後の日が沈んでいくのを見届ける、、ヘッドライトがポツポツと所々で光だし、道路はこれから遊びに行くのか帰るのか、かなり車とバイクの量が増えてきた。
この渋滞だとまだ空港までは時間がかかるな…
助手席ではIさんが運転するBさんと何か話している。
そうだ…昨夜の襲われた事、痺れがまた出たこと、終わっていないかもしれないこの出来事を話せば何かアドバイス戴けるかもしれない…。
Iさんに相談しようと思い、Bさんとの会話が終わったタイミングで話しかけると、Iさんは私を見ないまま静かに口を開いた。
「”また”ということはありえない…。自分で選んだのよ。」
「自分が再び選ばない限りは”また起きる”ということは絶対にありえないの。」
静かなのに語気が強く、とても厳しく言葉が胸に突き刺さり、鋭利なものでえぐられるような感じがした…。
私が選んだ…?原因がわからないまま苦しみ、焼き印のようにつけられた印ももう消えない…。そんな苦境もサイキックの皆さんのお陰でようやく取り除かれたのに、その呪いを…また自分で選んだ?
何故か涙が出そうになる。。
心当たりもないこんな理不尽なことを、、昨夜は殺されかけたというのに、これを私が再び選んだの…?私が悪いの??
私は選んでいない…。
なんでこんなに心が痛いのだろう。。
言葉が出ないまま空港に到着して、話しはそこで終わってしまった。
混雑するロータリーで車をすぐ降り、慌ただしくBさんとお別れして、スーツケースを掴み、空港に入っていく。。
カウンターまで無言で向かい手続きが始まる。
違うっ…!
落ち着け…現象にのめりこみすぎているんだ。引け。。深呼吸しよう。
今とらわれてる観念、感じている感情を冷静に感じて、客観的にこの現象全てひいてみていかないと、これに繋がり続けるということだ。
こんな現象は選んでいない。でも、この波動で私はこれを選んだ、つくったということか…。
わかっていても、このシンプルな法則にまだ残酷さを感じてしまうことがある。。
いや……わかっていないということだ。
ため息をひとつついてから、深呼吸をもう一度大きくして冷静になる。
この山を越えよう。
呪詛というケースが初めてなだけで、今までだって色々越えてきた。
インドネシア…あの世この世色んな存在が助けてくれた。。大丈夫。
引き寄せももっと理解し直そう。。このままではこれを繰り返すか…この呪詛で殺される。
法則を理解しきれていない自分に改めて気づいた。
今ここで手放せる感情を気づけただけ手放し、スッキリしてから帰国後もっとじっくり集中して核心に向きあう。
完全に終わらせる……!!
つづく