MooN 〜Holistic Healing Room〜

2度呪詛をかけられて死にかけた話。。『1度目』15

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15

 

ミント系の香りが機内に広がり朝を知らせる。
CAさんの朝の挨拶と共におしぼりが配られ、ざわざわと人が動き出す。
しばらくすると飲み物と朝食をのせたカートが動きだし、てきぱきと配膳されていく。
…もう日本に帰ってきてしまったんだなとしんみりしながら朝食を受け取った。

あまり食欲はないけれど果物が入った容器を開ける。
名残惜しくインドネシアのエネルギーを最後に入れておこうという変なクセでもあり、これはもう儀式になりつつある。
パイナップルを味わいながらまたきっと行けるのだからと心の中で呟いた…。

空港に着いてしまうと、インドネシア語とジャワの香りを感じながら飛行機とお別れして、その後はささっと動き、スーツケースや荷物を当日受け取りの運送手続きして、電車やバスの時間まで数人集まり少しお茶をしようと空港内のカフェに入った。

出勤の人達や帰宅の人達と「またねー」と笑顔で別れそれぞれの日常に戻っていく…。
カフェに入った数人もそれぞれの日常の話しに切り替わっている。
また日本での生活が始まるんだ。。

お茶を飲みながらこれからの予定や、写真ができた頃にまた会おうという約束など、これからの日常への話がどんどん展開していく。

…私は……呪いが消えるまでは日常生活が始まらない。
ここでの約束を現実にするためにも今夜決着をつけたい。

行きよりは身体はかなり軽く、新たに現れた痺れが定期的に小さく自己主張してくるものの、今はそれが何かわかっているので、『待ってろよ…』と少し喧嘩腰になっている自分がいる。

解決したい意気込みと共にピリピリと喧嘩腰でありながら、半分は冷静に集中力を高めているなんて帰国は初めてだ。
…初めて尽くしだったな。。今回は。
笑顔でみんなと別れて意を決して帰りの電車に飛び乗った。。。

 

 

 

空港から荷物が早く届き、スーツケースを開けると、ジャワの香りが部屋に広がる。
思わず笑顔になり深呼吸しながら仕入れたものと自分の物を分けてだいたいに整理し、仕事は明日から始めることにした。
仕事を翌日に残すことで次の瞬間…新しい明日に命を繋ぐおまじないをするように仕事を途中までで残す。

夜の本番に向けてみそぎするように入浴し、部屋を整える。
部屋の中心に座り、深呼吸して集中を高めていく…。
簡単に自分をプロテクトしてから周りを見てみると、何か異様な気配が天井から忍び寄るようにそばに近づこうとしている。
どす黒く煙のようで姿を見せない。

プロテクトを一層強めて広げていきながら、どす黒い煙を集中して凝視すると、あのナイフを持っていた手と同じ手がみえてきた。
私が見えてることに気づいたのか、それが私を掴もうと近づいてきた瞬間に心の中で強く命令した。
『術者のもとに帰れっ…!!!!』

念じたエネルギーがガスバーナーの炎のように煙に向かって噴き出す。
初めてやったことだったが功を奏し、どす黒い煙と手は私から離れて部屋から出ていった。
集中力を途切れさせないまま、それを追跡しようと念で追いかける。

見かけたことあるような建物と道…ヤシの木より低い建物。細かい住所はわからなくとも、どこの国でどの地域かはわかった。

似たような建物が並ぶ道を50キロ前後のスピードで走り抜け、1つの建物に入っていく。
室内は薄暗く、背を向けた男性が一人…私に気づいたのか振り向いた。
全く知らない現地の男性と完全に目があう…浅黒い肌、落ち窪んだ目からの鋭い視線。この人が呪詛をした人、呪術師だとわかった。
その男性が横を向くと、そこに座る一人の人物が見えた。

………そうだったのか…。

正座で座って視線を下に向けている……最近はまったく会っていない同業者の知人がそこにいた……。

 

 

目を開けて意識全てが部屋に戻ってきていることを確認する。
あの呪術師…私に正体を意図的に明かしてきた気がした。
そして過去の映像を私に見せたのだ…どこから始まったのか、誰からの依頼か……。

自らの正体も依頼者も明かしたということはもう手を引くということか…?

なんだよそれ…………。

終えたはずなのに達成感もなくただただ虚しさが残った。。
正体がわかっても、感情は何もわいてこない。

呪わば穴二つ…同業者ならわからないわけがないこんな危険まで犯すほど、殺したいと思うほどの怨みを持ち、呪術師に依頼するだなんて…。
そこまでの出来事は思い当たらなかった。

殺そうとした呪術師に対しても虚しさ以外なにもなかった。。。喧嘩腰なんて跡形もなく消えて心の中は空っぽだ…。

旅も呪いも今ここで全て終えたのだという状況だけがこの瞬間にある。。それだけたった。

 

改めて大きく深呼吸して、心身を解放した。
部屋に漂うジャワの香りに満たされ旅の思い出が温かくよみがえってきた。

終わったんだ…満月の夜に。。。私の旅。

温かで優しい時間や笑える時間、まだ舌に残る火傷の感覚には笑ってしまった。

部屋を清め直し、全てから守ってくれるあのマントラを唱えて眠りについた……。

 

視界に入る全てが白い…足元をみると床も全てが白い世界のようだ。
私も白いワンピースを着ている。

足元をもう一度見ると下に続く階段があるので降りていくことにした。
左側は壁になっている。

長い階段を降りても白い世界は変わらない…と思った瞬間、白い世界には目立つ黒い服の男が背後から突然現れて腕を強くつかまれた。

何か言ってるが聞き取りにくく、執拗に絡んできたので腕を振り払い、階段を降り続けようとするが、更にもう一人出て来て強引に掴みかかられ、必死に振り払い走るように階段を降りていくと、階段の終わりが見えて左側に扉が見えた。

あと少しで床に辿り着けそうな所で完全に両腕を捕まれて身動きがとれなくなってしまうが必死に暴れる。
周りにはいつの間にか他にも黒服の人達がきていて囲まれようとしていた。
諦めず暴れながら、気づくとその扉に向かって大声で助けを求めて叫んだ。

すると突然その扉が大きな音をたてて開き、中から白いローブを纏った老賢者達が何十人と一斉に飛び出してきて、私を掴む黒服の二人から、周りにいた全ての黒服の人々をあっという間に倒し、どこかに連れ去ってしまった、、!

手にはそれぞれ、剣や杖が握られており、全員が威厳のある神聖で高貴な存在に見える。

階段の一番下、開いた扉の前で捕まれた両腕を抱えながら座り込んでしまった私の左側に、一際神聖で威厳のある白いローブを纏い杖を持つ男性が慈愛に満ちた笑顔で私を見つめている。

「もう大丈夫。私達が守るぞ…。」
そんな声が頭の中に響いた気がした。。。

 

 

初夏の風がカーテンをなびかせる音…開かれた窓から入ってきた風は私のところまできて顔を優しく撫でていく。

目を開けて横を見ると、途中までの仕事が目に入る。
深呼吸するとまだジャワの香りが部屋を満たしてくれていた…。

目が覚めても夢の余韻は心強く、胸の奥が温かい。。
強力な守護者が愛と希望の光を新しく灯してくれたようだ。

新しい学びに仕事と…やりたいことが沢山あるな。
大きく手を広げながら伸びて違和感が1つもない身体を起こした。

 

新しい今日が始まる。

 

 

おわり

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